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A child with one eye and one horn: the bond between parent and child and the sad memories that reside in this strange creature

本日はこちらの手作り冊子、伊豆のむかし話から一つ美しくもとても悲しいお話をご紹介致します。

「目一つ角一本のせがれ」

かつて伊豆・修善寺の山里に、子どもに恵まれぬ夫婦がおりました。幾年もの間、子を授かることが叶わぬまま、夫婦は修善寺の霊泉に深く祈願を重ねていました。その祈りは切実で、ついにはこう願うようになります──

「目一つ角一本でもいい、どうか子どもを授けてください」

やがて、祈りは通じたのか、妻は身ごもり、ついに一人の子を出産します。しかし、その子は本当に「目が一つ、角が一本」という異形の姿をしていたのです。人々が驚き、あるいは恐れたその姿を前にしても、夫婦は決して子を見限ることなく、むしろ愛情深く「せがれ」として育てました。

このせがれは、たいへん心優しい子でした。両親の言いつけをよく守り、人に迷惑をかけず、静かに暮らしていました。しかし、ある日、思いがけない運命のすれ違いが起こります。夫婦が寝所で語り合う声が、せがれの耳に届いてしまったのです。

「せがれは可愛いが……目一つ角一本では、世の中で苦労するばかりじゃな」 「そうじゃな……あの子には不憫な思いをさせてしまう……」

夫婦に悪意はありませんでした。ただ、世間の厳しさに心を痛め、未来を思いやっての言葉でした。しかし、その言葉は、せがれの心に深く刺さりました。自分が異形であることに気づいていたせがれは、きっと親の愛情に報いようと静かに努めていたことでしょう。それだけに、あの会話は耐えがたいものでした。

その夜、せがれは黙って家を出て行きました。

夫婦は翌朝、そのことに気づき、愕然とします。戸も襖も乱されておらず、ただ、布団だけが冷たく沈んでいました。ふた親は泣き崩れ、「せがれよ、せがれよ」と山を越え、谷を越えて探し回りました。「一つ目の子はおらんかのう、わしらの子じゃよう……」「そうじゃよう……」と、夜を徹して呼び続けたといいます。

けれど、せがれは二度と姿を現しませんでした。

しかし、不思議なことが起こります。それからというもの、家の前に獲れたての鹿の肉が置かれるようになったのです。時には山の果実、寒い夜には炭火の入った火鉢。まるで、どこかで見守っているように、夫婦の暮らしを支える影がありました。

せがれは、山中で独り生きながら、両親への恩を忘れず、静かに、そして律儀に愛情を返していたのです。


異形の子と、親の愛──伝承に宿る普遍のテーマ

この伊豆・修善寺に伝わる「目一つ角一本のせがれ」の物語は、単なる妖怪譚ではありません。むしろ、そこには人の祈りと、報われぬ愛、そして赦しの物語が織り込まれています。

異形の子を授かったとき、夫婦はそれを「神の授かりもの」と受け入れました。しかし、日々を重ねるうちに、世間の目や生きづらさという現実に心を悩ませ、ついにはその本音を吐露してしまう。けれどその一言が、せがれの胸を裂いた。

親は愛していた。ただ、少しだけ、言葉が足りなかった。せがれも、愛していた。ただ、ほんの少し、自分を受け止めきれなかった。

この悲劇の中に浮かび上がるのは、「愛していてもすれ違うことがある」「本当に大切な人ほど、気づかぬうちに傷つけてしまうことがある」という、私たちの誰もが抱える普遍的な課題です。

そして、それでもなお、せがれは恩を返した。

この姿に、妖怪という異形の存在に託された、深い人間愛が宿っているように思えてなりません。


記憶にとどめるべき「妖怪」のかたち

「目一つ角一本のせがれ」は、たしかに人ならざる姿をしています。しかし、その行いは人間以上に人間らしく、優しく、誠実でした。

この伝承が今に語り継がれる理由は、その悲しみだけでなく、そこにある“誠意と愛”が、私たちの心に深く響くからでしょう。

妖怪とは、ただ恐れるべき存在ではなく、人の心の奥底を映し出す鏡でもあります。異形に宿る想いに、私たちがどのように向き合うのか──それを問われる物語が、伊豆・修善寺の山奥にひっそりと息づいています。

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