戦争と妖怪
8月15日は終戦記念日です。今から75年前の1945年8月15日、第二次世界大戦で日本が敗戦し、降伏したことが玉音放送により日本国民向けに全国で流され、日本の戦争が終わりました。
戦争という人間の活動とは無縁のように思える妖怪ですが、人間の生活に密着しているのが妖怪ですから、戦争と妖怪も実は無関係ではありません。
水木しげるの戦争体験と妖怪体験
有名なエピソードのひとつとして、水木しげる先生が南方戦線のラバウルで遭遇した妖怪の話があります。
水木先生は、ある時、一人で真っ暗なジャングルをさまよっているうち、突然、大きな岩のような壁にぶつかって、ゆく手を遮られます。そして、そのまま倒れて、疲労困憊で眠ってしまいます。
何時間かして辺りが明るくなって、目が覚めると、あったはずの大きな岩のような壁は、どこにもなく、目の前に見えたのは、海へと連なる断崖絶壁だったそうです。
もしあの時、壁にぶち当たらずに、そのまま前方に歩いて行ったら、断崖から海に落ちて死んでいただろうと、当時を振り返って語っています。
水木先生曰く、「ぬりかべ」に助けられたのだということです。
パプアニューギニアでは、山中で木を切る音や大木が倒れる音がする「天狗倒し」、死者の霊が夜の海に白くなって泳ぐ「しらみゆうれん」など、様々な妖怪がいたといいます。
「都会の電気が闇を消し、妖怪を追い出した」と言われますが、その反対に、いまだ完全な闇の存在するパプアニューギニアの夜は、精霊や妖怪といった存在が身近にいるのでしょう。
妖怪映画としての『この世界の片隅に』
また、先日もテレビで放送されていましたが、映画『この世界の片隅に』にも妖怪が出てきます。
『この世界の片隅に』は、こうの史代氏の原作漫画を片渕須直氏が監督したアニメ映画で、戦時中の市井の人々の生活を描いた物語です。新規場面を追加した別バージョン作品(長尺版)として『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が2019年12月に公開されています。
民俗学者の畑中章宏氏は、『この世界の片隅に』は、「優れた“妖怪”映画だ」としています。
「『この世界の片隅に』は優れた“妖怪”映画だ!民俗学者はこう観た」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50266
上記の記事にも書かれていますが、『この世界の片隅に』には、鬼、座敷童子などの妖怪が出てきます。
この作品(漫画)が描かれたの自体は2007年~2009年ですが、人々の生活と妖怪は切っても切り離せないものでしょう。
妖怪は、戦争体験の伝承にも一役買っているといえます。
香港が中国に飲み込まれ、米中対立も深まり、世界情勢がどうなっていくか分からない状況が続いていますが、水木しげる先生を始めとして、戦争経験者の方々の言葉には重みがあります。
今年は、疫病の流行というまさかの事態がありました。戦争も、この時代に起こることはないだろうとは思いつつも、まさかの事態はあり得ます。
妖怪や英霊たちの想いを無駄にしないためにも、どうすれば平和な世の中が続いていくかについて、絶えず考えを巡らせていきたいと思います。
文=渡邉恵士老
■渡辺恵士朗(けいちゃん)
北海道旭川市出身。早稲田大学人間科学部卒。在野の妖怪研究家。公認情報システム監査人(CISA)、プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)。
現在は経営・ITコンサルティングを生業として、北海道札幌市に居住しつつ道内各地や東京などを駆け巡っているが、大学の時には民俗学・文化人類学を学んでおり、ライフワークとして妖怪の調査研究を続けている。
現在住んでいる北海道にまつわる妖怪や、ビジネス・経済にまつわる時事ニュースと絡めた妖怪の記事を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/keishiro_w
ブログ:http://blog.livedoor.jp/meda3594/
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