疫病と妖怪(疫病神、アマビエなど)
中国湖北省、武漢を中心に流行し始めたコロナウイルスによる新型肺炎が猛威を振るっています。
検疫のため「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に長期間停泊を余儀なくされていることなどがニュースになっています。
北海道でも感染者が多く確認されており、2月22日時点では17人となっています。
これは、北海道には北海道立衛生研究所と札幌市立衛生研究所の2か所の検査所があるためであり、他の自治体では検査体制が整っていないだけで、未検査の感染者が多数潜伏しているのではないかと言われています。
厚労省では、検査が一度は検討されたものの、陽性者が多く出た場合の業務への影響などを考慮し、見送られたという話もあります。。。
新型コロナウイルスの社会影響
日本国内、全国的に感染者が増えつつある中、多くの企業ではBCP(事業継続計画)を発動し、リモートワーク・在宅勤務に切り替えています。ちょうど近年、働き方改革などの動きもあったことから、この働き方の移行はスムーズに進んでいるようです。
また、一般参賀の中止や、東京マラソンの一般参加中止、各種イベントの中止や延期が発表されるなど、経済活動や一般生活にも影響が及びつつあります。
「新型コロナウイルス」(COVID-19)について、「新型」というのは、新たに確認されたということで、既存のワクチンなどで対処できないので厄介な蔓延が懸念されています。
ちなみに、2002年から2003年に流行した「SARS」も、「新型コロナウイルス」によって引き起こされた疫病禍でありました。
SARSとは(Severe Acute Respiratory Syndrome)「重症で、急性の、呼吸器に現れる症状」という病態を表す言葉で、その正体が突き止められていなかった時期における疫病流行の現象を示す言葉にすぎません。
要は、「UFO(未確認飛行物体)」や「UMA(未確認生物)」と同じような名称です。
韓国では新興宗教の関係者を中心に感染が広がっているという事態もあり、この2020年の令和の時代に、疫病が世界的に蔓延することになるとは、誰が予想していたでしょうか。
昔の人びとは、疫病など原因不明の現象に対して、その原因を神や妖怪に求めてきました。
疫病の神様
「疫病神」は、「えきびょうがみ」とも「やくびょうがみ」とも読まれ、行疫神、疫神、厄病神などとも云われますが、咳病・疱瘡・麻疹など、さまざまな疫病をもたらすと信じられる神です。
人が病気になるのは、古くは目に見えぬ霊的存在のしわざと信じられ、特に流行性の強い病気や不治の病の類は疫病神や鬼、怨霊などのしわざとされていました。
古の朝廷では疫病神をあらかじめ都の境界でもてなしてその侵入を防ぐ「道饗祭」など、さまざま疫病神を追い出す祭事が営まれていました。
疫病神をもてなして追い出すという祭事は民間レベルでも盛んに行われ、村の境に注連縄を張って疫病神の侵入を防ぐなどの事例があります。
疫病除けとしては、鍾馗や牛頭天王、角大師を屋内あるいは戸に設けて護符とする信仰や俗信もあり、疫神を避けるものであるとされてきました。
疱瘡の神様
「疱瘡神」は、疫病の中でも特に疱瘡を司る神です。昔は疫病というと、疱瘡、麻疹、咳病、赤痢などが主で、なかでも疱瘡はもっとも恐ろしいものでした。
疱瘡神は、童子や坊主、小さな婆などの姿をして現れ、人を疱瘡にする一方で、その回復方法などを伝えることがありました。
怪鳥・ 以津真天
「以津真天」(いつまで)は、『太平記』に書かれた怪鳥です。
鎌倉時代が終わり建武の新政の動乱の頃、疫病で何人もの死者が出て、都の外れにいくつもの死体が積み重なっていた時に、紫宸殿の上に現れました。病死者たちの怨念からか、死体をいつまで放っておくのかと訴えるように、「いつまで、いつまで」と鳴いていたそうです。
疫病を予言するアマビエ
「アマビエ」は、江戸時代に肥後(熊本県)に現れた妖怪で、疫病の流行を予言したと伝えられています。人魚のような姿をしており、髪の毛が長く、顔には鳥のくちばしのようなものがありました。
豊作と疫病の流行を予言し、「 私の姿を描いた絵を人々に早々に見せよ。」と伝えたそうです。
中国における疫病を司る鬼
「瘟鬼」(おんき)は、中国に伝わる鬼神あるいは妖怪です。 疫病、疱瘡を引き起こすなどして人間を苦しめるとされ、 瘟部神、瘟司、瘟疫神とも云われます。
瘟鬼たちは五人組で行動をとることが多いと言い伝えられており、それを「五瘟」または「五瘟使者」などと称していました。家畜に起こる伝染病に対しての祈願との関係で五瘟鬼それぞれに馬・牛・鶏・羊・兎など別々の禽獣の頭を持つ鬼神の図が描かれたりすることもあります。
吸血鬼・ノインテーター
「ノインテーター」はドイツ、ザクセン地方の吸血鬼です。名前は「9の殺人者」の意味で、墓の中で死体が吸血鬼に変わるのに9日かかるという伝承からついた名前だと云われています。
疫病を広めるとされ、また疫病が広まった時に現れると云われています。この魔物を倒すには口にレモンを詰めるといいそうです。
その他の疫病除けになる妖怪
海外の事例も交えてご紹介しましたが、上記以外に日本では、牛鬼(うしおに)、河童など妖怪が疫病除けとして祀られる事例も多くあります。
また、昔から京の都では疫病が流行することがあり、妖怪ではありませんが、羅生門などその凄惨な様子を描いた物語も多くあります。
自分たちにできる新型コロナへの対応策
現在、コロナウイルスのワクチン等の対策が急ピッチで進められているものの、感染収束は早くても半年~1年後と見られています。
以下は東大総合文化研究科から出された個々人ができる具体的な対応策で、参考になるためご紹介します。
1.体調管理
2.テレワークや電子的ツールの活用
3.消毒や手洗い、マスク着用など
4.時差通勤や人混みを避ける工夫
5.ウイルスに罹ったか心配して不用意に病院に行かない
6.健康メモをつける
対応策については、厚生労働省のQ&Aなども参考にしてください。
疫病の流行に対抗するための妖怪知識
歴史や伝承でしか見たことのなかった、疫病の蔓延という事象が現実のものとなってしまいました。
妖怪には、昔の人びとが受け継いできた知恵が詰まっています。
社会の混乱が極まってくると、陰謀説やデマ、流言飛語が出回ります。
それらの噂に流されないためには、軸となる知識、妖怪や伝承に関する知識が必要となります。
しばしば、大学の文系学部不要論が取りざたされますが、文化人類学や民俗学等の知見は人類や民族が危機に陥った時にこそ役立ちます。
妖怪について知り、昔の人びとの知恵を得ることで、現代の社会を生き抜く糧になるでしょう。
画像=黄表紙『怪談夜更鐘』、鍾馗像(河鍋暁斎画)、アマビエ(水木しげる)
参考文献:「精選 日本民俗辞典」(福田アジオ、吉川弘文館)、「決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様」(水木しげる、講談社文庫)、「日本妖怪大事典」(水木しげる、村上健司、角川文庫)
文=渡辺恵士朗
■渡邉恵士老(けいちゃん)
北海道旭川市出身。早稲田大学人間科学部卒。在野の妖怪研究家。公認情報システム監査人(CISA)。
現在は経営・ITコンサルティングを生業として、北海道札幌市に居住しつつ道内各地や東京などを駆け巡っているが、大学の時には民俗学・文化人類学を学んでおり、ライフワークとして妖怪の調査研究を続けている。
現在住んでいる北海道にまつわる妖怪や、ビジネス・経済にまつわる時事ニュースと絡めた妖怪の記事を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/keishiro_w
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