災害と妖怪(大鯰、やろか水、一目連)
台風15号による千葉県の被害
世間ではラグビーワールドカップ2019日本大会が開幕し賑わっていますが、千葉県では9月5日に発生した台風15号による被害の復旧が完了せず、一部地域では停電などの被害が2週間以上も続いています。
台風15号による被害は関東各地で発生し、特に千葉県では大規模地域で停電、断水などが発生していました。9月9日には首都圏でJRなど交通機関が大きく乱れました。
また、9月23日には大型の台風17号が日本に接近し、24日にかけて北海道を横断しました。
東日本大震災の時もそうでしたが、報道機関の現地局がない地域では、報道が遅れる・報道されないという実情があるようです。
ちなみに、2011年の東日本大震災の時には、私自身は茨城にいたために震度6弱の地震と約1週間の停電・断水などを経験しました。
2018年9月の北海道胆振東部地震の際には札幌にいたため、東日本大震災の時のサバイバル経験が非常に役に立ちました・・・。
大地震と大鯰
古くから人々は、自分たちではコントロールできない自然災害の理由を妖怪に求めることがありました。
有名なところでは、江戸時代の安政の大地震の際に、地底の大鯰が地震を起こすとされ、「鯰絵」と呼ばれる錦絵版画が大流行しました。
鯰絵は、大鯰を押さえているとされる「要石」が祀られている鹿島神宮の神が、鯰を退治する構図で描かれているものが多いとされます。
水害とやろか水
また、日本列島は古くから水害が多い土地であったため、水にまつわる言い伝えが多く残されています。
愛知県から岐阜県に広がる濃尾平野、特に木曽川流域では、「やろか水」の伝承があります。
大雨の降り続いていた頃の真夜中に、対岸の淵の方から「遣ろうか遣ろうか」という声がする。土地の者は気味悪がっていたが、そのうち一人が「いこさばいこせ(呉れるのなら寄こせ)」と叫ぶと、たちまち大水が押し寄せて、あたりの田畑がすべて水の下になったということです。
この「やろか水」の正体は、暴風や河川を止めている堰など音が「やろうか」という声に聞こえ、その直後に一気に水が放出する鉄砲水ではないかと云われています。
暴風雨と一目連
一目連は、台風や暴風雨の神様として、三重県桑名市の多度神社に祀られています。鍛冶の神様である天目一箇神が、片目のない龍神と習合したものと云われています。
海難防止や雨乞いの対象として祀られ、この神が出かけるときには暴風雨となるが、出かけた後には風がおさまり海上も穏やかになり、出かけた先の他国では田畑が荒れて並も可も吹き飛ばされてしまうと云います。
出かける時期は7月~8月とされ、台風の通過を一目連の仕業として見ていた可能性があります。
災害対策と妖怪・伝承
いくつか事例を紹介しましたが、このように災害と妖怪は、切っても切れない関係と言えます。
各企業や自治体では、災害があった時の対応策を立案し、必要な活動が行われるように、事業継続計画(BCP)を策定するところが多いです。
しかし、そもそも計画だけ立てて、それが実行されない、無用の長物となることが多々あります。
そうならないためには、意識を変えていくことが必要です。
意識を変えるのは容易ではありませんが、小さい頃からの教育を続けることで、それが当たり前になっていきます。
小さい頃から、その地域の妖怪や伝承を聞き続けることで、いざという時の危機対策意識が自然に身につくはずです。
妖怪や伝承を知り、後世に伝え残していくことが、災害対策として有効な手立てなのかもしれません。
画像=「安政大地震絵/国立国会図書館蔵」、「水木しげる/妖怪道五十三次 庄野」
文=渡邉恵士老(Watanabe Keishiro)
参考文献:「柳田国男と今和次郎 災害に向き合う民俗学」(畑中章宏、平凡社新書)、「災害と妖怪――柳田国男と歩く日本の天変地異」(畑中章宏、亜紀書房)、「死者の民主主義」(畑中章宏、トランスビュー)、「日本妖怪大事典」(水木しげる、村上健司、角川文庫)、「本当に使えるBCPはシンプルだった。 経営者のための3つのポイント」(池田悦博、税務経理協会)
■渡辺恵士朗(けいちゃん)
北海道旭川市出身。早稲田大学人間科学部卒。在野の妖怪研究家。
現在は北海道札幌市と東京の二拠点生活をしながら、経営・ITコンサルティングを生業としているが、大学の時には民俗学・文化人類学を学んでおり、ライフワークとして妖怪の研究を続けている。
現在住んでいる北海道にまつわる妖怪や、ビジネス・経済にまつわる時事ニュースと絡めた妖怪の記事を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/keishiro_w
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