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妖怪とネガティブ感情──「弱さ」を抱きしめる妖怪的思考法

世の中には、「ポジティブであること」がよいこと、「ネガティブなことは口にすべきでない」という空気があります。 私自身、かつてはそう思っていました。人前でネガティブなことを言えば、周囲に心配をかけてしまう。そんな「大人の常識」に従って、明るく元気であることが正しい振る舞いなのだと信じていたのです。

けれど、妖怪という存在を深く知るようになってから、少しずつ考えが変わってきました。

妖怪とは、感情の化身である

妖怪たちは、決して空想の中だけに棲んでいるわけではありません。 人間の内側に渦巻く感情──怒り、悲しみ、嫉妬、不安、孤独──そういった「負」とされる感情の影が、時に姿を持って現れたもの。 つまり、妖怪とは人間の“影”の部分が生み出したものとも言えるのです。

ユング心理学では、人間の無意識下にある「シャドウ(影)」という概念があります。これは、私たちが意識の中で認めたくない、あるいは社会的に受け入れられないと感じている側面のこと。

ネガティブな感情を抱く自分を「こんな自分ではいけない」と否定し続けると、その感情は無意識の底に沈み、やがて思わぬ形で表に出てきます。 まるで妖怪が、見えないところからこちらを覗いているかのように。

感情を抑圧する社会で

現代では、かつてのように酔っ払って愚痴を言い合い、ケンカして仲直りするような「感情のガス抜き」の場が減ってきました。 ノミニケーションが廃れ、礼儀正しさが先行し、感情の発露は「自己管理の未熟さ」として見られることもあります。

しかし、感情を溜め込んでばかりいると、SNSで爆発的に吐き出す、あるいは他者を攻撃する形で表れることがあります。 これはまさに、心の中の妖怪が暴れ出してしまった状態とも言えるでしょう。

私たちは本来、感情を共有し、共鳴し、癒し合う存在です。負の感情を「なかったこと」にせず、まずは自分がそれを認めることが、健やかな心の循環を生む第一歩なのです。

ポジティブも、ネガティブも、どちらも人間

もちろん、ポジティブなことを発信することも大切です。 誰かの心を明るく照らすような言葉や行動は、社会に必要不可欠なもの。

けれど、ネガティブな感情を抱くことそのものを否定するのは、まるで自分の半分を否定するようなものです。 ポジティブな面とネガティブな面、両方があってこそ人間。 妖怪たちがそれを教えてくれるのです。

私たちは常に光の中にいることはできません。影があるからこそ、光のありがたさが際立つのです。 ネガティブな感情もまた、私たちの人生に深みと意味を与えてくれる重要な一部。無理に押し殺すのではなく、「そう感じている自分」を受け入れてあげることが、心の安定に繋がるのです。

影との付き合い方──現代人のための妖怪的感情処理術

では、ネガティブな感情とどう付き合えばよいのでしょうか?

  • 名前をつける:モヤモヤ、ザワザワ、イライラ──言葉にすることで、曖昧な感情に輪郭ができます。妖怪も名前を与えられることで認識され、語られるようになるのです。
  • 吐き出す場を持つ:信頼できる友人との会話、日記、創作など、感情を安心して出せる「場」を作ること。
  • 妖怪を思い浮かべる:イライラしているとき、「あ、今の自分は妖怪に取り憑かれてるかも」と思うと、客観視ができるようになります。
  • 影は悪ではないと知る:シャドウとの対話は、自己理解への第一歩。妖怪的思考は、心の闇を無理に消すのではなく、共に生きる姿勢を教えてくれます。

安全な場所とは何か

感情を吐き出す「安全な場所」とは、必ずしも物理的な空間だけではありません。 心理的に安心できる場所──それは、否定されず、笑われず、過剰に同情されることもなく、ただ受け止めてもらえる環境です。

信頼できる人との関係性の中に生まれるその空気感こそが、安全な場の本質。 そして、現代においてはSNSですら、その役割を果たすことがあります。

SNSという“現代の妖怪スポット”

現代において、SNSもまた「感情を発信する場」として機能しています。 一見危ういようにも思えますが、共感や繋がりが生まれることで、孤独が和らぐこともあります。

私自身、SNSで自分の感情を言葉にするのは、ただの自己表現ではありません。 あえて心の内を見せることで、「ああ、妖怪屋がそんなふうに考えているなら、自分も少し話してみようかな」と思えるきっかけになればいい。

誰かが声を上げることで、「そんなこと言ってもいいんだ」と思える人が出てくる。 そんな連鎖が起きれば、それはもう、小さな社会の中の“情の通い道”なのだと思います。

言葉にすることで、影は影でなくなる

妖怪たちは、名前を与えられることで「存在」として認識され、物語として語られ、文化として残っていきました。 それと同じように、私たちの感情もまた、言葉にすることで輪郭を持ち、「共にあるもの」として扱えるようになります。

ネガティブな感情を抱くことは、弱さではありません。 それは生きている証であり、人間らしさの表れです。

妖怪屋は、今日もそんな感情にそっと名前をつけて、言葉にし続けています。 誰かの中の、まだ名もなき妖怪に、光が差すように。

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