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酒を呑む妖怪、呑まれる日本——妖怪と日本酒の縁と、米不足の今

日本酒業界では、ここ最近「コメ不足」が深刻な問題になっている。
酒造好適米の確保が難しくなり、一部では出荷停止や製造見合わせの事例も出始めている。

日本酒は単なる嗜好品ではなく、神事や年中行事の場でも用いられる、
文化としての意味を持った飲み物だ。そしてそれは、人ならざる存在、妖怪たちともどこかでつながっている。
今回は、酒にまつわる伝承を持つ妖怪たちをいくつか取り上げながら、今の日本酒文化の揺らぎについて考えてみたい。


酒呑童子——酒好きの鬼、その最期もまた酒によって

平安時代、京都・大江山に棲んでいたとされる鬼の頭領・酒呑童子。
その名の通り酒を好み、都から人をさらっては盛大な酒宴を繰り返していたという。
彼を退治するため、源頼光らが用いたのが「神便鬼毒酒」と呼ばれる毒入りの酒だった。
酔わせて隙をつくという戦法は、まさに酒が物語の鍵を握っていることを示している。


八岐大蛇——古事記に登場する“酔わせて倒す”神話

『古事記』に登場する八岐大蛇(ヤマタノオロチ)は、スサノオノミコトによって退治された怪物として有名だ。
このときも、使われたのは酒だった。八つの頭を持つ大蛇を眠らせるために造らせたのが「八塩折之酒(やしおりのさけ)」。
古代から、酒はただの飲み物以上に、神秘的な力を持った存在として扱われていたことがわかる。


豆狸——酒蔵に現れる小さな悪戯者

関西地方に伝わる「豆狸」は、酒と縁が深い狸の妖怪だ。
とくに灘地方の酒蔵に現れては、酒を盗み飲んだり、酒桶の栓を抜いていたという伝承がある。
豆狸のいたずらに困った蔵人が、狸用に専用の樽を置いたという話もあり、
人と妖怪が酒を通じて“共存”していたかのような面白さがある。


サケイノトコ——井戸から湧き出す酒の話

福島県磐城には「サケイノトコ(酒井の床)」というの酒の伝説がある。
貧しい青年が、酒好きの母のために井戸を掘ったところ、そこから酒が湧き出たという話だ。
妖怪そのものが登場するわけではないが、現実離れした“酒が湧く”という現象に、
当時の人々は何かしら妖の気配や神意のようなものを感じていたのかもしれない。


文化としての“酒”が失われるリスク

こうした伝承に共通しているのは、「酒」がキーアイテムとして描かれている点だ。
その酒が、原材料のコメ不足によってつくれなくなる、あるいは品薄になるというのは、
単なる産業の問題ではなく、文化的な断絶でもあると感じている。米農家の作付面積も年々減っており、農家の平均年齢も70歳以上の後期高齢者になりつつある、本当に深刻な問題なのだ。


妖怪屋としてできること

今後、自分たちができることとしては、以下のような展開を考えている。

  • 妖怪と地酒のラベルコラボ企画
  • 「この妖怪に合う一杯は?」というテーマの利き酒イベント
  • 農家支援を兼ねた“妖怪米”の販売やクラウドファンディング
  • そして、妖怪の姿のまま日本酒と和食を楽しみながら町を歩くイベントの実施
     → たとえば、町内の複数の飲食店を回遊しながら、妖怪姿のまま地酒と料理を楽しむ「妖怪バル」形式。仮装参加者への特典や、スタンプラリー企画も可能だろう。

酒にまつわる妖怪伝承を現代に置き換え、地域活性や伝統継承の形で展開していくことは、
エンタメとしてだけでなく、日本酒文化、それに付随する米農家、酒造を守るための一つの手段にもなり得るはずだ。


「酒が足りない」と嘆く声は、今や妖怪たちの側から聞こえてきてもおかしくない。
彼らがこの時代に何を感じ、どんな行動を起こすのか——
そんな視点を持って、これからも妖怪とともに歩んでいきたい。

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