天上の生命 雷獣
―――激しい雷雨から一夜明けた朝、木こりが雷の落ちた焼け跡を見に行った。そこには、無惨に折れた古木と、全身を鱗におおわれた蟹のような獣がいた。
どうも、神代です。すっかり寒くなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。最近の気温の移り変わりの早さには目を見張るものがありますね。
科学が発達した世界で生きている我々ですら、目まぐるしく変わる天気模様に悩まされているくらいです。天気予報がない昔の人にとっては、空は尚更に気分屋で超常的な存在に見えた事でしょう。
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という事で今回は空にまつわる妖怪を紹介しようと思います。その名は『雷獣』読んで字のごとく雷を自在に操る獣……だと創作では扱われがちなのですが、原典にはそのような記述は一般的にはありません。
この妖怪は日本各地に伝承があります。姿形もその伝承によってばらばらであり、東日本の雷獣はおおよそ哺乳類のような容姿をしていますが、西日本の雷獣はカニや蜘蛛、蠍、タツノオトシゴといった妖怪にしても珍しいモチーフの姿をしています。
ちなみに、秋田県には現れた哺乳類様の雷獣を捕獲して食べたという逸話がありますが、えぐみもなく食べやすい味わいだったそうです。流石、貪食の国日本。まあ、タコやらイカやらフグやらナマコやらを食べようと思う民族が獣型の妖怪を食べるというのは、妙な説得力がある話ですよね。
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これだけ雷獣に関する記述がばらばらである事から思うに、雷獣という具体性のない名前がこの妖怪に付いたのは、そういった多種多様な獣を一括りにする為なのではないでしょうか。
雲の上には別の世界があり、そこには所謂天上人、神様が住んでいる。雷や雨は天上天下がつながる瞬間であり、そこから天上の獣が落ちてくる事が稀にある。そういった理解を人々が受け入れられたからこそ、これらの獣は総じて雷獣と呼ばれたのでしょう。雷獣は個体名ではなく分類名なのです。
そう考えると、東日本の哺乳類的な物も西日本の異形も等しく雷獣であるという理解が出来るのかと思います。そう、空の世界に住む獣は全て雷獣なのです。
最近の異常気象は凄まじい物があります。もしかしたら、今年になって雷獣が何匹か空から落ちてきているかもしれません。そんなことを想いながら、冬の晴れ空を見ています。
(画像:絵本百物語)
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