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狸憑きのお話。

 小雪に入り、暦の上にはもう雪を見る時節となりました。
 皆様は、この冬の序の口、いかがお過ごしでしょうか?化けた身には冷えた風が堪え、私はこのところ、朝晩と寒さに震えております。
 また、お話しさせていただきます、狸森泥舟でございます。
 皆様は〝狸憑き〟というのを耳にしたことはございますでしょうか?
 狸憑きというのは、憑き物の類いで、読んで字の如くに狸が人に取り憑くことでございます。
 狸の霊に取り憑かれることや、化け狸に取り憑かれることなどをそう申します。
 狸に憑かれた者はだいたいが大食になると言われておりますが、しかし、食べても食べても、取り憑かれた者は痩せるばかりで衰弱し、やがては死んでしまうと言います。
 他にも、不治の病に倒れたり、正気をうしない人に害を為すようになったりと、その症状は様々でございます。
 それでは中でも、有名なお話を一つ…………
 文政十一年三月、やちという老婆がおり屋敷勤めをしていたが、ある日、突然意識を失った。
 数刻して意識を取り戻したが四肢が動かず、療養した。すると食欲が増し尋常ならざる量の食事をとるようになった。また、様子も変わってしまい、突然歌うようになったりなどした。
 屋敷の主がやちを医者に診せると、その身体には脈がなく、医者も匙を投げた。
 その後、やちは次第に痩せ細り、身体に穴が空きその中から毛の生えた何かが蠢くのが見えるようになった。
 半年がすぎ秋に入った頃、着替えをさせようとするとおびただしい獣の体毛が着物についているなどした。
 その後、枕元に狸の姿が現れるように成り、枕元に柿や餅がたくさん置かれるようになった。やちが言うには訪れる者が置いていくということだった。
 また読み書きの出来なかったはずのやちが、短歌を紙にしたためることもあったという。そして、やちの食欲はさらに増し、毎食七膳から九膳もの飯を食い、その後は甘味も大量に平らげた。 
 しかし、十一月に入ったある日、やちの部屋に阿弥陀三尊の姿が現れ、やちを連れて行くのが見えた。その時、やちの身体から老いた狸が抜け出て去って行った。
 残されたやちの身体は亡骸となっていた。
 その後、やちの世話をしていた少女の夢に狸が現れ、世話になったと礼をいい、少女が目覚めると礼の品なのか、金の杯がおかれていたという。
…………いかがでしたでしょうか?
 老婆は倒れた時すでに亡くなっていたのか、それとも、狸が取り憑きその瞬間老婆はとり殺され、そのせいで倒れたのか…………
 また、老いた狸は老婆になんのために取り憑いたのか…………
 謎は深まるばかりですが、なんとも背筋の寒くなるお話でございますね。
 しかし、世話をしていた少女には礼だと言って金の杯を与えております。
 どうして憑いたのかはわかりませんが、一概に悪い狸とも言えないのかも知れません。
 皆様の周りでは、最近様子のおかしい方はいらっしゃいませんか?
 え?いれば少女のように世話をして、礼を弾んでもらうと?
……ふふふ、およしなさいませ。
  狸はきまぐれでございますから、変な欲をだして近づくと、きっとただではすみませんよ…………
 さて、今宵のお話はここまでといたしましょうか。
 冷えた背筋に風邪が取り憑きませんよう、どうぞ温かくしておやすみなされませ。
 またお目にかかりましょう。

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