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政治・民主主義と妖怪

政治、宗教、野球の話は人の信条に触れるため、NGとされることがあります。

今回は「政治」や「民主主義」と妖怪の話ですので、そういった話が苦手な方はそっと閉じていただければと思います。

デマと妖怪

アメリカ大統領選挙の結果がバイデン氏で確定しました。

トランプ氏は結果を受け入れずに訴訟し法廷で争う姿勢を見せていますが、大規模な不正があったとする主張を裏付ける証拠が示せない中、弁護団が相次いで撤退しており裁判の見通しは厳しく、結果が覆ることはないと見られています。

日本の外交政策上はバイデン氏よりもトランプ氏の方が優位な点があり、個人的にもバイデン氏の大統領としての資質には疑問があるものの、選挙結果という事実を受け入れないトランプ氏の姿勢は見苦しくもあります。

ちなみに、選挙に負けたトランプ氏が腹いせに極秘扱いされているアメリカのUFO情報を公開させるという噂話があり、もしそれが本当であれば楽しみです。

トランプ氏の支持者としては、「Qアノン」と呼ばれる陰謀論者集団がいます。

アメリカ政府を裏で牛耳っている秘密結社が存在し、トランプ氏がその秘密結社「ディープ・ステート(DS)」と戦っている英雄であるという陰謀論を信じている人たちです。

日本で言うところのいわゆる「ネット右翼」に近い存在ですが、それよりも組織的な信奉が強く、大統領がバイデン氏に決定しても、アメリカ国内はしばらく混乱が続き、社会の分断は修復が困難なのではないかと云われています。

Qアノンではないが、典型的なトランプ支持者のBBQ BEER FREEDOMおじさん

選挙中には、トランプ氏自らがtwitterでデマともとれる情報を発信し、日本の一部有名人やメディアも、そのデマや「赤い蜃気楼」に踊らされる光景が見られました。

日本の政治でも、11月1日に大阪都構想を巡る住民投票があり、結果として維新の会が提示した都構想は否決され、大阪市が存続することになりました。

ここでもトップである吉村知事や松井市長ら自らがデマに近い情報をたれ流し、不安を煽ったりするということがありました。

特に、コロナ関連では「ポピドンヨード」が新型コロナ感染症に治療効果が期待できるとの大きな誤解を招く発表を行い、社会を混乱に陥れました。

※デマや噂話と妖怪については、以下の記事をご覧ください。

政治と妖怪

政治と妖怪について、安倍前首相の祖父であり、A級戦犯として巣鴨プリズンに拘置されながらも戦後に内閣総理大臣まで上り詰めた岸信介は「昭和の妖怪」と称されました。

政界は妖怪や魑魅魍魎が跋扈する世界と云われることがあります。

政治屋は老獪なイメージが強いですが、若手政治家たちも、社会から断絶した非常識の世界に生きているため、人間の常識が通用せず、失言が多いために皮肉を込めて「妖怪」と呼ばれることがあります。

右側が魑魅、左側が魍魎

妖怪と民主主義

死者の民主主義』という本の中で民俗学者の畑中章宏氏は、「死者のための民主主義」が必要であると主張しています。

畑中氏はその以前から『21世紀の民俗学』の中で「河童に選挙権を!」と呼び掛けており、そこから発展したものが「死者のための民主主義」であるとも云えます。

「死者のための民主主義」は、元々はイギリスの作家であるギルバート・キース・チェスタトンと、日本の民俗学者である柳田国男が提唱したものです。

日本やイギリスといった国家は、「今の人間」だけのものではありません。将来の国民となる、我々の子孫のものでもあります。それと同様に、過去にこの国に生きていた者たちのものでもあります。

最近はSDGsなどにより、未来世代のために地球環境をどうやって残していくか、という議論は盛んになってきましたが、今の社会は過去から連綿と続いてきた文化や伝統の積み重ねなので、過去に生きてきた人間や、人間以外のものたちにも、地球環境を使う権利はあり、民主主義は必要といえるでしょう。

特に、「人新世(アントロポセン)」と呼ばれる時代において、民主主義や資本主義のあり方を考えるために、過去との対話は不可欠でしょう。

死者というゴジラの解釈

2001年の映画「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(略称:GMK)では、ゴジラは「太平洋戦争で死亡した人々の怨念の集合体」(=英霊)として描かれています。

初代の1954年の映画「ゴジラ」でも明示はされていないものの、テーマとしては「真正面から戦争、核兵器の怖ろしさ、愚かさを訴える」ということがあり、GMKゴジラはその正統な続編といえ、2016年の「シン・ゴジラ」にもコンセプトは受け継がれていると云えます。

ちなみに、民俗学者の赤坂憲雄も、初代ゴジラについて、第二次世界大戦の戦死者、とりわけ海で死んでいった兵士たちの亡霊であり、芹沢博士が自分の命をかけて慰霊をする必要があったという説を唱えています。

「GMK」では、日本を守るために蘇った護国聖獣である、モスラ(最珠羅)、キングギドラ(魏怒羅)、バラゴン(婆羅護吽)が人間と協力し、何とかゴジラ(呉爾羅)を撃退します。ここでは、今を生きている人間が、過去の人間(=英霊)に勝ったといえます。

映画としてはこの結末でよいのかもしれませんが、実際問題としては、「今の人間」は、ゴジラ(=英霊)と共存する道を模索しなければなりません。

死者の行く場所

また、『死者の民主主義』では映画「この世界の片隅に」についても触れています。この映画には、オニザシキワラシなど、人外の物の怪、妖怪が出てきます。本書で触れられているように、広島は「死んだ人のゆくところ」と言われます。戦争に限らず、人々の生活と「死者」は切っても切り離せないものとなっています。

※「この世界の片隅に」の妖怪たちについては、以下の記事でも触れています。

人類みな妖怪

『死者の民主主義』で畑中氏は、「死者や精霊や妖怪、あるいはそのほかの人間ならざるもの、また人間と人間ならざるものの境界にいるような存在の事情に思いをいたし、彼らの言い分を聞いてみよう」と呼びかけます。「彼らの政治参加を促し、彼らが現代社会の重要な構成員であることを知らしめたい」とも主張します。

確かに、「日本」という国家は、「今の人間」だけで構成されるものではありません。「今」ではなく、過去も未来も包摂するし、「人間」以外のものも重要な国家の構成要素となります。

畑中氏は今までにも、「日本列島に棲息してきた「妖怪」たちは、災害や戦争などにより不慮の死を遂げた人びとの集合霊であり、彼らにも選挙権を与えるべきだと主張」しています。「精霊や妖怪、小さな神々を素朴に信じる人びと、信じてきた人びとこそが民主主義の担い手であると私は考える」と言います。

ゴジラは、太平洋戦争で亡くなった英霊の集合体ですが、それもまた日本を構成する一要因であり、政治はそこにも思いを馳せる必要があります。

ゴジラにも、河童にも、妖怪にも、選挙権を。

それが、「死者の民主主義」という考え方なのです。

妖怪は、あまり政治や民主主義などと関係ないものと思われがちですが、人間も妖怪も皆、同じ社会に生きるものであり、人間だけ特別ということはないのです。

人類みな妖怪」なのです。

 

画像:『百鬼夜講化物語』「魑魅魍魎」、「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(金子修介監督、東宝)、「この世界の片隅に」(片渕須直監督、こうの史代原作)

参考文献:「21世紀の民俗学」(畑中章宏、角川書店)、「死者の民主主義」(畑中章宏、トランスビュー)、「ゴジラとナウシカ 海の彼方より訪れしものたち」(赤坂憲雄、イースト・プレス)

文=渡邉恵士老

 

■渡辺恵士朗(けいちゃん)

北海道旭川市出身。早稲田大学人間科学部卒。在野の妖怪研究家。ITコーディネータ、公認情報システム監査人(CISA)、プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)。

現在は経営・ITコンサルティングを生業として、北海道札幌市に居住しつつ道内各地や東京などを駆け巡っているが、大学の時には民俗学・文化人類学を学んでおり、ライフワークとして妖怪の調査研究を続けている。

現在住んでいる北海道にまつわる妖怪や、ビジネス・経済にまつわる時事ニュースと絡めた妖怪の記事を執筆中。

Twitter:https://twitter.com/keishiro_w

ブログ:http://blog.livedoor.jp/meda3594/

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  1. 猯谷 狢太郎

    日本には、片寄った米メディアの情報しか伝わらないので、共和党大会で黒人やゲイの支持者がトランプへの応援演説をしたとか、黒人の失業率が政権下の政策で大幅に下がったという事実が伝わっていないのが残念です。
    個人的にはオバマ政権が理想論で分断したアメリカをトランプ政権が実務的に是正してきたという印象なんですが、なぜかメディアは逆転して語っていますね。
    アメリカ政界やマスメディア業界にも狐狸物怪が渦巻いているのでしょう……。

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