埼玉妖怪百景:山・川・音にひそむあやかしたち

関東地方のほぼ中央に位置する埼玉県。海こそありませんが、山地・河川・湿地・台地と変化に富んだ地形が広がり、その環境の多様さは、実は妖怪伝承の豊かさにもつながっています。今回はSNSで話題となった「埼玉の妖怪」たちを起点に、埼玉の地形と文化の中に息づくあやかしの姿を追ってみましょう。
山にひそむあやかしたち
埼玉西部、秩父山地には古くからの信仰や言い伝えが色濃く残っています。その代表格が「山姥(やまうば)」。横瀬町に伝わる話では、悪事を働いた山姥が捕らえられ、松の木に藤蔓で縛られた末、悔しさのあまり「松藤絶えろ、松藤絶えろ」と呪いの言葉を吐いたとされます。
また、同じく山の道に現れる「送り狼」も全国に広く伝わる山岳妖怪のひとつです。埼玉の秩父地方にもその伝承が残されており、人を襲うかと思えば、むしろ道中を守る存在として現れることもある、“畏れと感謝”が共存する不思議な妖怪です。
川と湿地に潜む存在
埼玉は大きな川にも恵まれています。特に見沼や荒川流域には、水にまつわる信仰と怪異が根強く残っています。「見沼の龍神」はその最たる例で、かつて見沼干拓が行われた際に祟りがあったとされるなど、地域の水利と神格化が結びついた象徴的存在です。
また、川越には「川越七不思議」として語り継がれる怪異の一つに、「底なしの穴」の伝説があります。この井戸には、不思議な話が伝えられています。たとえば、お札をこの穴に納めると、1キロ近く離れた龍池弁財天の双子池に浮かび上がったり、ごみを入れてもすぐになくなってしまったといいます。また、硬い物を入れても、水に落ちる音や底にぶつかる音が一切しなかったとも言われています。川越一帯は元来湿地帯であり、そうした地形が水に関わる怪異を生み出す土壌となっていたことは想像に難くありません。
村と道の怪異たち
都市と田園が混在する埼玉では、夜道や辻に現れる妖怪も数多く語られています。「夜道怪」はその名の通り、夜道にだけ現れる謎の存在です。しかし、実際には姿形が語られており、笈を背負い、ヒゲを生やし、ボロボロの服を着た姿や、白い装束をまとい行灯を背負って白足袋に草履を履いているとも言われます。その正体は「高野聖」と呼ばれる高野山の下級の僧であった可能性も指摘されています。宗教者と妖怪が重なるこの存在は、信仰と恐怖が表裏一体であることを物語っているようです。
また、「袖引き小僧」は、子どもや旅人の袖を引いて驚かす小さな妖怪。子どもを早く帰らせるための教育的存在だったとも言われています。
音が生んだ妖怪たち
埼玉の妖怪の中には、「ネロハ」「ブッツァロベェ」など、非常にユニークな名前を持つものがいます。これらはおそらく、方言や掛け声、叱責のセリフなどから発展した“音系妖怪”です。
例えば「ネロハ」は、「寝ろ早(ねろは)」という東北訛りに近い表現が語源と考えられます。夜更かしする子どもに「早く寝なさい」と促す言葉が変化し、いつしか「ネロハが来るぞ」という形で妖怪として語られるようになったのかもしれません。
「ブッツァロベェ」は、「(お)ぶさってやるべ」(おぶさる=背負う、乗りかかる)という方言が由来とされます。つまりこの妖怪は“背中におぶさってくる存在”であり、見えぬ気配が背後から迫るような恐ろしさを持っています。語感も相まって非常に印象深い名前です。
いずれも、人の声や恐れが妖怪の姿を生んだ例といえるでしょう。
SNSの反応より
最後に、SNSで寄せられた「埼玉の妖怪」に関する声をご紹介します。
Aさん:
袖引き小僧、沢女、送り狼、ヤナ、夜道怪、オクポ、伊草の袈裟坊、川天狗 あんまり出てこない…(´・ω・`)
Bさん:
小豆婆・川天狗・袖引き小僧・沢女・ヤナ・チトリ・ブッツァロベェ・オクポ・オブブ・ドワマンマコヲ・福福・夜道怪・ネブッチョウ・ネロハ・偽汽車・見沼の龍神・オーサキ・ダイダラボッチ・オイヌサマ・伊草の袈裟坊・笹井の竹坊・紺屋の小次郎・小沼のかじ坊・六丁目橋の怪音
Cさん:
天狗、河童、おいてけ堀、ヤナ、一つ目小僧、夜道怪 野寺の鐘って違ったっけ?
Dさん:
送り狼と「ヤナ」ぐらい(苦笑)😅
Eさん:
ねぶっちょう、オサキ、生団子仏、夜道怪、小豆婆
Fさん:
見越し入道、ダイダラボッチ、送り狼、袖引き小僧、一つ目小僧、一つ目入道、人面犬、龍神、天狗、狐、のっぺらぼう、ムジナ、タヌキ、霧島駅 埼玉に龍神信仰の地もあるので龍神様も妖怪枠に入れてみました。妖怪ではないけども都市伝説として異界駅の霧島駅。
まとめ:地形と言葉が妖怪を育てる
埼玉県の妖怪たちは、決して派手ではないかもしれません。しかし、地形の多様性、日常の暮らし、そして人々の言葉や感情が織り成すことで、豊かで奥深い妖怪文化が育まれているのです。今後もこうした“地味に豊かな”あやかしたちに光を当てながら、全国の妖怪地図を広げていきたいと思います。
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