妖怪界の天気の子?魃(ばつ)
天気の子、面白かったですね。特に映像は圧巻で、零れた飲み物、お風呂の水、登場人物の涙、あらゆる『水』の描写が美しい作品だったように思いました。どうも、ミーハーです、神代です。
さて、天気の子のヒロイン天野陽菜は念じるだけで周囲の天気を晴れにする力を持っています。今日は、それに因んで晴れを呼ぶ妖怪を紹介しようとおも……ったのですが、日本には周囲を雨にする妖怪は数多くいるのに、晴れにする妖怪は極々少ないように思います。
ということで今回は海外、中国の怪物『魃(ばつ)』を紹介しようと思います。
魃は、出典となる『山海経』曰く、元から怪物だったわけではありませんでした。紀元前2500年前の中国の皇帝である黄帝の娘だったのです。なお、黄帝は三皇五帝という神話伝説上の皇帝であり、人間と言うよりは神のような存在です。そんな黄帝の娘である魃は姿形こそ人間の美女でしたが、特殊な能力が有りました。
その能力とは、体内に宿した超高温の熱によって、彼女の意志とは無関係に自分の周囲一体を旱魃に至らしめることです。ある時彼女は、風雨を司る敵が都を攻めてきた際に父である黄帝より天上から呼び出され、その能力を使います。しかし、争いは壮絶なもので、その時に能力を使いすぎた彼女は天上へ帰れなくなりました。
さて、彼女は悪気がなくとも存在するだけで辺りを旱魃に陥れ、人の住めない土地へと変えてしまいます。困った黄帝は、彼女を人里離れた土地へ幽閉したそうです。
一説によれば、結果的に黄帝に裏切られる事となった彼女は、その恨みによって美しかった容姿が醜い猿のように変貌していき、定期的に人里に降りては旱魃をもたらして人に危害を加えるようになったという事です。
また、変貌後の彼女の姿だけが伝来したのか、後世には魃を獣型の化物とする説もあります。山海経より後に書かれた書籍には、魃は40−60センチ程度の猿のような化物であり、手足が一本ずつしかなく、風のように早く走り、通った場所に旱魃を起こすと書かれています。
なお、伝承によれば↑に掲載した獣型の魃はトイレに入れられると死ぬそうです。元が神格を帯びたものなので不浄の場所に入れられるのは苦手なのでしょうか。死因:トイレに入ったから……。うーん、しまらない。
ちなみに、 日本では鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に『ひでりがみ』という名前で獣型の魃と酷似した妖怪が記載されています。
——————————————————————————————————–
さて、ここからは眉唾な話。霊幻導士で一躍有名になった中華ゾンビのキョンシー、これらのルーツは実は魃であるという説があるのです。
曰く、旱魃によって死んだ人間は、墓の中で100日が経過すると獣型の魃のように手足が一本で猿のような姿形となり、人里に危害を加えるようになるというのです。そのため、魃の信仰が強い地域では旱魃で死んだ人間の死体を土葬ではなく火葬にするとのことです。
人々は昔から天候という力が及ばない敵と関わってきました。天候に対して人が抱くイメージも人によって様々でしょう。漁師は雨天の中の晴れ間を女神に見立て、農家は作物を枯らす日照りを怪物に見立てる。魃の姿が多面的な理由は、天気に対する人々の思いが生き方によって異なるからではないかと思います。
限度を超えた気温の上昇が続く昨今。皆さんも一本足の奇妙な猿を捕まえたらトイレへ投げ込んでみましょう。もしかしたら少しだけ涼しくなるかもしれません。
(出典: 今昔画図続百鬼、三才図会 )
この記事へのコメントはありません。