マオリ族の伝承と妖怪
ラグビーワールドカップ2019日本大会が、南アフリカの優勝で閉幕しました。
南アフリカのチーム愛称は「スプリングボクス」といい、ウシ科スプリングボック属の動物のことですが、サバンナに棲息し、群れで行動するものの運動能力が高く、南アフリカの国の動物(National animal)となっています。
決勝戦は南アフリカとイングランドでしたが、EU離脱で揉めているイギリスからは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドという4チームが出場していました。
これは、ラグビー発祥の地であるイギリスへの伝統的な配慮から、国際競技団体ではイギリス単体ではなく、4地域それぞれの加盟が認められているからです。
「ハカ」とマオリ族
また、準決勝で敗れ3位となったニュージーランドは、「オールブラックス」の愛称で有名ですが、試合前にマオリ族の伝統的なダンスである「ハカ」を踊ることでも有名です。
民族舞踊である「ハカ」は、マオリの戦士が戦いの前に踊る他、歓迎の挨拶などでもハカを踊ると云われています。
マオリ族は、ニュージーランドにイギリスが入植する前から先住していた民族で、ポリネシア人の系統といわれています。
マオリの神々
マオリの神話は重要な儀礼の中で語られ、天空の神であるランギ・ヌイと、大地の女神であるパパ・ツ・ア・ヌクなどを祀り、創造主イオが神々の階層の最上位に位置するとされています。
ランギ・ヌイとパパ・ツ・ア・ヌクの間に生まれた子供は六柱神となり、マオリの万物の創造に寄与します。しかし、ランギ・ヌイがパパ・ツ・ア・ヌクの上に横たわっているため(2人の神は空と大地そのものであるため)、長い間大空と大地の間からはどんな光も差し込んでくることはありませんでした。
そこで、六柱神は天地を引き離すことを画策し、森の神であるタネ・マフタが天地を引き離すことに成功します。
タネ・マフタの娘であり妻でもあるのが、夜と死の女神であるヒネ・ヌイ・テ・ポです。
彼女は、森の神タネ・マフタと女神ヒネ・ハウ・オネの間から生まれました。出生当初は「夜明けの女」を意味するヒネ・ティタマという名前で、やがて彼女はタネが自分の父親だと知らないままタネと結婚します。ある時彼女は自分の夫が父親だという事実を悟り、恥ずかしさのあまり彼女は地下の世界ポの闇へと逃げました。タネはヒネ・ティタマを追いかけようとしたが、彼女はこの世の絆を断ち切り、タネは地上に戻って光の世界の子孫の面倒を見なければならないこと、その間、自分は闇の世界で子孫を引きずり込むことを大声で告げました。
これが死の起源になったといわれています。そして、夜明けの女ヒネ・ティタマは、暗黒の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポとなりました。
マオリの神話は、登場人物が多く、エピソードに事欠かないのと、神々のキャラクターがあって面白いです。
マオリの妖怪たち
また、文献が少なく、私も調べ切れていないのですが、マオリ族には妖怪の伝承も数多くあるようです。
モコ・ティティ(モコティティ、モコ・ヌイ)
ニュージーランドのマオリ族に伝わる「アトゥア」という、諸々の病の精霊の一種。トカゲの姿で現れる。肺結核や呼吸器疾患を引き起こす。
ポウアカイ
ニュージーランドのマオリ族に伝わる怪鳥。空を飛びながら、獲物の人間を見つけると、鉤爪で捕まえる巨大な鳥。
パトゥパイアレヘ
ニュージーランドのマオリ族に伝わる、夜の精霊。森の奥の暗闇に棲んでいる。
パラタ
ニュージーランドのマオリ族に伝わる、海に棲む妖怪。洞窟のような大きな口を持っている。海の潮の満ち干きは、パラタが海水を呑んだり吐いたりするために起こる。
ホロマタンギ
ニュージーランドのマオリ族における怪物。「イフ=マータオタオ(Ihu-maataotao)」とも呼ばれる。タニワの一種で巨大なトカゲのような姿をしている。他のタニワと違って人を襲わない。カラピティのクレーターを作り出したのはホロマタンギで、彼は今や黒い岩山(ガーディアン・ロック)に姿を変えてしまったが、この近くをモーターボートやカヌーで通ると転覆させられるとされている
上記のとおり、マオリの神話は色々な伝承が残っているものの、日本語で読める文献があまりないため、引き続き調査し、また機会があればご紹介したいと思います。
画像=妖怪本舗
文=渡邉恵士老
■渡邉恵士老(けいちゃん)
北海道旭川市出身。早稲田大学人間科学部卒。在野の妖怪研究家。
現在は北海道札幌市と東京の二拠点生活をしながら、経営・ITコンサルティングを生業としているが、大学の時には民俗学・文化人類学を学んでおり、ライフワークとして妖怪の調査研究を続けている。
現在住んでいる北海道にまつわる妖怪や、ビジネス・経済にまつわる時事ニュースと絡めた妖怪の記事を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/keishiro_w
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