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世界の魔女と日本神話

映画『魔女見習いを探して』が公開されました。

約20年前に放送されていたアニメ『おジャ魔女どれみ』の続編ですが、アニメを観ていた人たちが大人になったメタ的な物語で、旅と酒が恋しくなる映画でした。

アン・ハサウェイ主演の映画『魔女がいっぱい』も公開されたりと、最近は魔女に関する話題が多くあります。

ヨーロッパにおける魔女

魔女」(Witch)は、狭義では「古いヨーロッパの俗信で、超自然的な力で人畜に害を及ぼすとされた人間、または妖術を行使する者のこと」を指します。

中性のヨーロッパでは、「魔女狩り」「魔女裁判」が行われ、歴史上の有名な人物としては、「ジャンヌ・ダルク」が異端審問にかけられ、魔女として処刑されています。

広義での魔女

広義での「魔女」は、非ヨーロッパ圏における「シャーマン」や、日本の神道における「巫女」、あるいは「男性の魔法使い」(Wizard)を含む場合もあります。

佐渡島の「アリガタヤ」、沖縄の「ユタ」など、日本におけるシャーマンについては以下の記事もご参照ください。

https://youkaiya.jp/youkai-ch/?p=1634

世界各地で観られる「 ハイヌウェレ型神話」

ヨーロッパのスペインやスイスなどで多く見られる「火祭り」では、魔女と呼ばれる人形を焼く慣習が、人身供犠の代わりであり、豊作を確実にするためのものであると云われています。

女神が殺されることで作物が得られるというテーマは、インドネシア、メラネシア、ポリネシアからアメリカ大陸にかけての広い地域に分布しており、ドイツの民族学者であるアードルフ・イェンゼンがインドネシアのセラム島の神話の主人公の名にちなんで、「ハイヌウェレ型神話」と名付けました。

日本神話のオオゲツヒメとウケモチ

日本の『古事記』に出てくるオオゲツヒメ(大宜都比売)や、『日本書紀』のウケモチ(保食神)といった女神も「ハイヌウェレ型神話」の一種と云われます。

オオゲツヒメの逸話について、ある時、天上界の神々がオオゲツヒメに食物を所望した時、オオゲツヒメは自分の鼻と口と尻から、様々な美味なものを取り出し、それを調理し盛りつけて神々に差し上げました。その様子を見ていたスサノオ(須佐之男命)は、汚い方法で料理を出す女神だと思ってオオゲツヒメを殺してしまいます。その殺されたオオゲツヒメの頭から蚕が、目から稲が、耳から粟が、鼻から小豆が、陰部から麦が、尻から大豆が生じました。その時、オオゲツヒメの身体に生じた種を、天上界の神であるカミムスヒが、スサノオに取らせた、という話です。これが地上界に穀物がもたらされた起源であると考えられています。

これが『日本書紀』では、ツクヨミ(月夜見尊)がウケモチという女神を殺す話になり、穀物を生み出す部位、生じるものも、『古事記』と少し違って描かれています。

バリ島の魔女

「ハイヌウェレ」というのはインドネシアのセラム島の神話から取られたという話をしましたが、同じインドネシアのバリ島には、「ランダ」という魔女の言い伝えがあります。

「ランダ」は、仏教の「鬼子母神」がバリ化した姿と云われています。

ヒンドゥー教の「サティー」と呼ばれる慣習では、夫に先立たれた妻は、夫に従って死ぬのが理想とされています。しかし、実際には、現世への思いが深く墓場にさまようケースがあります。そんな寡婦は、時として子供を食べる羅刹の類となり、そのような恐ろしげな存在に対してバリでは「ランダ」と呼ぶようになりました。

「ランダ」と対となる聖獣として「バロン」がいます。

「バロン」は、森の「バナス・パティ」(良気)の顕現であり、全身に輝く鏡の小片をつけた獅子の姿をしています。

バリの暦であるウク暦の祭礼日には、「バロンダンス」という悪霊祓い、疫病祓いの舞台劇であるチャロナラン劇を行います。

「バロンダンス」は1930年代から、島を訪れる外国人の観光客向けに公演されるようになりました。本来の「バロンダンス」は3時間以上に及び、トランス状態に陥った踊り手達がナイフで自分自身を刺したり、トランス状態から離脱するために生きた鶏をむさぼり食うといったことがありましたが、現在観光地で観られる「バロンダンス」では、そのようなシーンはなくなっています。

今回は世界の魔女と日本神話をメインにお届けしました。

妖怪要素は少なくなってしまいましたが、『ゲゲゲの鬼太郎』にも魔女は登場するので、許容範囲とさせてください。

ちなみに、上記にもありますが、「バロンダンス」には疫病祓いの願いも込められています。

冬になり新型コロナの感染拡大が続いていますが、一刻も早い終息を祈願しています。

 

画像:「魔女見習いをさがして」(佐藤順一監督、東映アニメーション)、「シャルル7世戴冠式のジャンヌ・ダルク」(ドミニク・アングル、ルーヴル美術館)、「ハイヌウェレ」(Xavier Romero-Frias)

参考文献:「文化人類学事典」(石川栄吉、蒲生正男、梅棹忠夫、佐々木高明、大林太良、祖父江孝男、弘文堂)、「バリ 観光人類学のレッスン」(山下晋司、東京大学出版会)

文=渡邉恵士老

 

■渡辺恵士朗(けいちゃん)

北海道札幌市在住。旭川市出身。早稲田大学人間科学部卒。在野の妖怪研究家。ITコーディネータ、公認情報システム監査人(CISA)、プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)。

現在は経営・ITコンサルティングを生業として、北海道札幌市に居住しつつ道内各地や東京などを駆け巡っているが、大学の時には民俗学・文化人類学を学んでおり、ライフワークとして妖怪の調査研究を続けている。

現在住んでいる北海道にまつわる妖怪や、ビジネス・経済にまつわる時事ニュースと絡めた妖怪の記事を執筆中。

Twitter:https://twitter.com/keishiro_w

ブログ:http://blog.livedoor.jp/meda3594/

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