フルバと憑きもの筋
「フルーツバスケット」は、主人公の本田透と、ある秘密を抱える草摩家の人たちとの交流を描いた恋愛コメディです。
原作は高屋奈月氏による漫画で、1998年から2006年まで「花とゆめ」で連載されていました。
アニメ化もされていて、2001年に放送された後、2019年に再びアニメ化され1st seasonが9月まで放送されていました。
ここから若干ネタバレというか、漫画又はアニメの冒頭で判明するのですが、この「フルーツバスケット」という作品、カギとなる草摩家の人びとは「動物憑き」であり、十二支+猫の動物に変身してしまうのです。
「憑きもの筋」の実態
「憑きもの筋」は、民俗学で度々取り上げられるテーマです。
現実には、動物に変身することはありませんが、「憑きもの筋」の家系(家筋)にある人は、憑きものを使役して、他人から財物を盗むなど、普通の人とは違う能力を持っているため、忌み嫌われていることが多いとされます。
一部地域では、現在でも差別の対象とされることがあるそうです。
「憑きもの」として多いのは狐や犬などとされます。特に、狐の場合は「人狐」や「管狐」、犬の場合には「犬神」と呼ばれることがあります。
佐渡島のムジナ憑きとアリガタヤ
新潟県佐渡島では、ムジナや生霊、死霊などに化かされたり憑かれたりした話しが語り継がれています。
憑きもの現象の原因としては、「ムジナが憑いた」とされることが多く、自分もしくは周りの人やアリガタヤに災因を結論付けられることになります。
「アリガタヤ」とは、佐渡島における一種のシャーマンです。ムジナ(貉、狢)の祟りや憑依を取り除くエージェントで、伝統医療における癒しを提供、病気を治療し、その霊能に感嘆した人びとから「有難や」と言われることから、「アリガタヤ」と呼ばれるようになったそうです。
佐渡島における「アリガタヤ」のようなシャーマンは、恐山のイタコや沖縄のユタなど、全国にいました。
水木しげるの「のんのんばあとオレ」に出てくるのんのんばあも、鳥取県境港では拝み屋・祈祷師のことを「のんのんさん」と呼び、その妻であったために「のんのんばあ」と呼ばれたと言われます。
「憑きもの筋」というキーワード
漫画の中の重要なキーワードとなることもある「憑きもの筋」ですが、実際には、コミュニティの中で特殊な役割を担っている、地域社会を構成する上でキーとなる要素です。
そのため、一昔前のムラ社会の考察などをする際には、避けては通れない要素です。
歴史の浅い町に住んでいると分かりませんが、未だに風習が残っている地域も多いと聞きます。
一見華やかな恋愛コメディでも、裏には深い闇があるのかもしれません。
画像=©高屋奈月・白泉社/フルーツバスケット製作委員会、『百怪図巻』より「犬神」(佐脇嵩之)
文=渡邉恵士老
参考文献:「憑霊信仰論―妖怪研究への試み」(小松和彦、講談社学術文庫)、 「シャーマニズムの世界」(佐々木宏幹、講談社学術文庫)、「憑依と呪いのエスノグラフィー」(梅屋潔、浦野茂、中西裕二、岩田書院)
■渡辺恵士朗(けいちゃん)
北海道旭川市出身。早稲田大学人間科学部卒。在野の妖怪研究家。
現在は北海道札幌市と東京の二拠点生活をしながら、経営・ITコンサルティングを生業としているが、大学の時には民俗学・文化人類学を学んでおり、ライフワークとして妖怪の研究を続けている。
現在住んでいる北海道にまつわる妖怪や、ビジネス・経済にまつわる時事ニュースと絡めた妖怪の記事を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/keishiro_w
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