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見えないものに、名前をつける――妖怪で町を育てることはできるのか?!

ある日、ふと思いました。「妖怪で町を育てることはできないか?」と。

“あずき洗い”は、日本各地に伝わる妖怪のひとつです。夜な夜な川辺や沢の近くで、小豆をザッザッと洗うような音が聞こえるとされる存在です。

そんな“見えないけれど、確かにそこにいたもの”を、今の時代に呼び戻すことができたら――町がもう一度、わくわくする場所になるのではないか。そう考えたのが、今回の構想のはじまりです。


「また来たくなる理由」を妖怪でつくる

地方の観光は、一度来て終わりになりがちです。けれど妖怪には、「育てられる存在」「時とともに変わる存在」としての力があります。

たとえば、一体の妖怪を地域に住まわせる。そして、その妖怪には「育成要素」を持たせる。最初は声しか聞こえない、次は影が見える、次は姿が……というように、来訪者の行動や季節によって、妖怪が少しずつ育っていく――そんな仕掛けを想像してみてください。

こうした“妖怪育成体験”を通じて、訪れた人は町の風景とともに妖怪の物語も記憶します。そして「次はどんな姿になっているだろう?」と、もう一度足を運ぶ理由が生まれるのです。

これは、架空の話ではありません。ARやMRといった現代技術を活用することで、スマートフォンを通じて「そこにいるはずの妖怪」が見えるようになる未来も、そう遠くないかもしれません。物語性と技術を融合させることで、“妖怪の町”がより直感的に体験できる未来も想像できます。


ひとりからでもできる。妖怪プロジェクトのはじめかた

壮大な構想のように聞こえるかもしれませんが、すべては小さな一歩から始められます。

例えばこんなことを思いつきました。自分の暮らす場所に一体のオリジナル妖怪を生み出してみること。性格、姿、好きな食べ物、住んでいる場所――それを文章にして、ブログに書いてみる。次に、「妖怪ノート」をつくり、訪れた人にその妖怪を“育ててもらう”仕組みを考える。

すみかは、地元のお店の棚の一角でもいい。紙とペンと、物語があれば、妖怪はそこに棲めます。必要なのは、信じて語ることだけ。

そして、育成の様子を記録し、定期的に発信する。そうやって、小さな物語が町に根を下ろしていくのです。

たとえば、こんなことから始めてみてはいかがでしょう。

  • 身のまわりの「不思議なこと」「気になる場所」に名前をつけてみる
     風の音が変だなと思ったら、「風くぐり」なんて妖怪をつくってみる。小さな違和感が、新しい妖怪の種になります。
  • 自分の町に住んでいそうな妖怪を想像して、スケッチしてみる
     お子さんと一緒に描いてみるのもおすすめです。それをノートにまとめて「妖怪ノート」を作ってみるのも面白いでしょう。
  • SNSに投稿してみる
     「#わたしの町の妖怪」などのハッシュタグで発信すれば、共感する人たちが集まるかもしれません。

こうした小さな動きが、やがて町の個性やつながりを育てていきます。妖怪は、特別な人だけのものではありません。あなたの暮らしのすぐそばに、きっと息をひそめているはずです。


経済と文化のあいだに妖怪を置く

地域に根ざした活動を続けるには、やはり“動きが巡る仕組み”が必要です。

妖怪は、商品になりにくい存在かもしれません。
けれど、物語になれば、さまざまな形で人の関心や行動を引き出す力を持っています。

妖怪ノート、目撃談、語り部イベントそうしたものが少しずつ、地域のなかで活かされていくことで、緩やかに人と人のつながりが生まれていくのです。私はこれを妖怪のご縁と呼んでいます。ご縁は妖怪と同じで目に見えないもの、目に見えないものこそを大事にする文化を築く、それが妖怪が町を育てるということじゃないかと。


実践例:川越での「妖怪まち歩き」体験

実は私たちはすでに、ひとつの町でこの“妖怪との共生”を試みたことがあります。舞台は、歴史と風情が残る埼玉県・川越。

私たちが開発したスマートフォンアプリ「妖怪コレクション」は、位置情報を使って妖怪を探し集める体験型アプリです。このアプリを活用し、川越の町にオリジナル妖怪と伝承妖怪を“放ち”、来訪者がそれを探し歩くという「妖怪まち歩き」イベントを行いました。

町中にちりばめられた妖怪たちは、ただ見つけるだけでなく、その土地の物語や空気を吸って生きている存在。参加者は、スマホ越しに妖怪を探しながら、自然と町の魅力にふれ、いつもの風景が少しだけ“異界”へと姿を変える体験をしてくれました。

この取り組みは、まさに「見えないものに、名前をつける」ことで町を育てる、小さな第一歩だったのです。


さいごに:まずは、ひとつの妖怪から

私の町にも、きっと何かが潜んでいる。

そう思いながら、私は手元のノートを開いてみます。どんな妖怪がこの町に生まれるべきか、まだはっきりとは分かりません。けれど、風の音が少し変わった気がする。鳥の声が遠くなったような気もする。

さあ、そろそろ動き出しましょう。あなたの町にも、妖怪が育つ土があるかもしれません。風の音が変わったら、それはきっと、妖怪の種が芽吹いたしるし。
さあ、あなたの町にも妖怪を育ててみませんか?

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